少年が味噌汁を運ぼうとしたら、母親が声をかけた。
「こぼさないように気をつけて」
「うん」と返事をした直後、少年は見事につまずき、味噌汁を床にぶんまけてしまった。いつもはこぼさずに運んでいた。母親が「気をつけて」と念を押したその日に限って、見事にこぼしたのだった。
あの時、なんでつまずいたんだろう。いつもより気をつけていたのに。そんな古い記憶を辿っていたら、ふと本棚の『インナーゲーム』と目があった。答えはすぐに見つかった。

『カラダは指示をされると、上手く動けなくなる』
なるほど。「足をそっと出して」、「腕を揺らさないように」。あの時、ボクの頭はうるさかった。でも頭はすぐに口を出す。「もっとこうしろ」「違う、ああしろ」。うるさいなぁ。この頭、どうやったら黙るんだろう。
それで結局、モジャモジャ先生を訪ねた。
「まあ、お茶でもどうぞ」
先生はそう言って、熱々のほうじ茶を出してくれた。
