勉強会が終わると、いつもの居酒屋で延長戦となる。その日は、速く走るコツの話で盛り上がった。そして一通り話が出尽くした頃、誰かがモジャモジャ先生に話を振った。
「ゆっくり走ればいいんですよ」
先生はニコニコしながらそう言った。
それは、記録や順位にこだわらずに楽しく走るという意味じゃなかった。「速く走りたかったら、ゆっくり走ればいい」という不思議なパラドックス。
すると、みんなが次々と質問をぶつけた。それは、練習の時か競走の時か。短距離の話か長距離の話か。
「どんな時でもです」
先生はいつものように、ボクらをけむに巻く。そして混乱しているボクらを察して、こう付け加えた。
「全力で一生懸命走ることと、速く走ることは違うということです」
よくわからない話だった。でも不思議とワクワクした。自分の中の常識が音をたてて崩れていく。
『ゆっくり走ると、速く走れる』。ノートを出してそうメモした。
